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京北町の可能性
この建物と家具工房の建つ場所は、京都でも北山杉の産地として有名な京北町である。
昨今の京都市中心部のオーバーツーリズムとは縁遠い場所である。実際にあまり外国人の姿を見かけることは少ない地域である。
この地域に宿泊施設建設とpivotoの家具工房を移転したのは、地域特有の文化的な背景に魅力を感じたからである。

京北町では、茅葺きの古民家が今でも多く現存しており、そのどれもが築130年以上の歴史を持っている。その時代の手仕事を今に残している。それらが作り出す風景の文化。
さらに、北山杉の産地として手を加えられ続けている山々の風景。この地域で栽培される農作物は、いわゆる京野菜と言われるものが多く、京北を流れる川で取られる鮎は天皇に献上されていたということも言われている。
世によく言われる京都らしさの一端をこの地域が担っており、その地域の文化にもう一度フォーカスすることで、京北町を少しでも持続させようと考えている。

 

家具工房
家具工房として改修した建物は築130年以上の茅葺きの民家である。この古民家の構造を残し屋根裏を現しにし大きな気積のワンルーム空間として、家具工房の機械類をレイアウトした。さらに受け継がれてきた日本庭園に対して、開口部を設け作業中もその風景を見られるようにした。
工房では、機械音が出るため外壁を新たに張りまわし断熱材を充填することにより吸音効果を期待するとともに断熱性能の向上もおこなった。屋根面の内部は茅がむき出しになっておりそれ自身が吸音の効果を発揮しているため音による近隣への影響は殆どない状況を作っている。

 

LANDFORM workshop cottage KEIHOKU
家具工房の隣にこの宿泊施設は建っている。敷地は、二車線の国道沿いで緩くカーブしている場所のため敷地形状は歪で方向性の無い形をしている。そのため、この建物の配置を決定するに当たり、既存建物との距離と工房側の作業性を考慮するとともに元畑の土地を避ける場所としてきまった。そして、視線の最も抜けた方向に開口部を向けるように建物の方向を決定した。

特徴的なV字型屋根は、上述の通りもっとも見せたい風景に向けて開いた結果である。また、工房の大屋根と対比的な風景を作り出すことも意図しており、宿泊施設としてのアイデンティティーと非日常の場であることを主張している。
別荘であり、一頭貸しの宿泊施設として計画したため、部屋の構成は住宅とほぼ同じである。
1階には、メインの空間としてLDKがあり、南に向けて大きな開口が設けられている。北側には浴室があり、屋外には露天風呂も設えられている。
2階には、寝室が二部屋あり部屋ごとに向き合う風景に合わせた形としている。

 

額縁としての内部空間
建築の開口部は、風景を切り取ると言う表現をされる。このことは、真っ当なことであるが、切り取る時の状態は往々にしていかにシンプルに二次元的に切り取るかに注力されていることが多い。つまりシンプルな額縁にすることで絵の部分を強調すると言う意図ではあるが、我々は常々そこに疑問を抱いてきた。つまり額縁そのもの作られ方によって、絵の見え方も変わってくるのではないか、その額も含めての絵(風景)を見せられないかと考えている。この建物から風景を見せるにあたり、内部空間の分厚い額縁を通して風景を見せようと考えた。そこで、家具的な密度感と質感を設えて部屋ごとに風景の額縁としての内部空間を作り込むことにした。LDKは、南側の風景に相対しており、開口部からレイヤー状に、L、D、Kと並べられている。天井は、照明が組み込まれたリブが連続しており、このリブは囲炉裏(リビング)の部分で吹き抜けを縦方向にあがり、2階の壁面の構造になる。リブや置き家具などを含めて厚みのある額縁をとらえている。

2階の南に面する部屋は、メガホン状の空間となっており、視線の方向性が空間的に作られている。吹き抜けとの間仕切りであり、本棚のような壁の存在が連続するリブが視線のシークエンスを作り出し、部屋に入る手前からの連続的な視線の歩行を作っている。この部屋も開口部に対してリブや屋根面、ベッドに至るまでの要素が額縁として機能している。

2階の北に面する部屋は、リブで囲われた洞窟のような空間となっている。開口部は小さめに取られている。風景の抜けとして距離がなく、田んぼを挟んで山につながっている風景であるため、額縁のほうが大きく見えてくる事により、洞穴のような、空間とそのさきにある景色の広がりを感じてもらえることを意図した。

視線を制限することや方向性を作ること、そしてその景色を見せるための奥行き感を作ることが今回の内部空間を作るテーマであった。装飾的になりすぎず、かといってシンプル過ぎない。それは、宿泊施設として非日常の空間を提供することと、額縁的な設え自身が機能を持ちつつ、その役目を果たしていくことで、これまでになかった景色との関わりが作られているのではないかと考えている。

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Project Details

Main use :cottage
Location :kyoto
Site area :484.35㎡
Building site :55.07㎡
Total floor area :125.57㎡(1F 63.76㎡ / 2F 61.81㎡)

Contructor : Yamada Contractor Co,. Ltd.
Structural engineer : Mitsuda Structural Consultants
Lighting : DAY&LIGHT Lichtplanung
Furniture :pivoto
2023